人間の尊厳と、責任
新潮文庫から出ているサン=テグジュぺリの「人間の土地」の「僚友」という小説があります。
郵便飛行機事業の仕事をしている彼の僚友のギヨメという人が、アンデス山脈を飛行している時に悪天候に見舞われて墜落してしまい、氷点下40度の雪山を遭難したときのお話です。
ギヨメは食べる物もなく、凍傷で出血して、腫れ上がった足を引きずりながら歩き続けます。
止まると、たちどころに凍り付いて動けなくなってしまうので、不眠不休でとにかく歩き続けます。
歩く時には出来るだけ、余計なことを何も考えないようにして歩きます。
3日間歩いた頃に、疲労と衰弱で、一度は心臓が止まります。
彼は、心臓に呼びかけます。
がんばれ!もう一息働いてくれ!
躊躇はしても、彼の心臓は、また、動きだします。
だけど、苦痛が続くにつれて、助かるかどうかもわからないのに、自分は、なんで、こんな苦しい思いを続けているんだろう?
倒れて、そのまま死んでしまえば苦痛からも解放されるのにと、自問自答します。
そして、いよいよ、力がつきて倒れてしまいます。
目を瞑って、そのまま死んでしまおうとした時です。
彼の脳裏に、ふと、彼の妻の姿が浮かびます。
俺が死んだら、彼女は、どうやって生活していけばいいんだろうか?
生命保険を掛けているが、失踪の場合には4年間は保険が降りない。
せめて、自分の死体が発見されやすい場所に移さないと。
目を開けた時に、50メートル先に岩が突き出た場所が見えます。
力を振り絞って、あそこまで移動しよう!
そして、なんとか起き上がります。
自分の命よりも妻を思う心が奇跡を生みます。
発見されやすい岩場まで歩いた事が功を奏し、彼は、その後の5日めに救助されます。
彼の命は、彼だけのものではなく、妻の為にも、また、僚友の為にも、生きなければならない。
生きるように努力しなければならない。
そういうお話です。
命の尊さと、強さを感じる名作です。
機会があれば、一度、読んでみてください。
人間は、社会で生きている以上、いろいろな責任を負います。
苦しい時もあります。
投げ出したい時もあります。
だけど、諦めずに、最後まで努力をするのが人間の努めなのかもしれません。